月刊FRUITS LIFE No.134 |
中計の先に目指すもの
中期経営計画という言葉を目にすることが多くなりました。
企業がどこに向かって進んでいくのか、そうした指針がなければ、会社がどこに向かっていけば良いのかわからなくなります。
とりわけガバナンスが確立できていない企業やオーナー企業にあっては、経営者の独走にならないためにも明確な中計が必要となります。
中計を立てる上で「現状分析→総括→方針」という方法論は、組織であれば営利企業でなくとも求められます。
FLの中計とは
FLの歴史は2012年、破綻企業から会社全て(債権債務・取引先・従業員・不動産・設備)を買い取る会社法上の事業譲渡から始まりました。
当時殆どの部門で大幅な赤字を出していました。赤字の中心のスーパー流通部門を整理し、比較的利益の取れていた学校給食部門に会社資源を集中して経営基盤を確立しようとしました。
一定限経営の目処が立ったところで、年間稼働率の変化が激しく、売上の8割近くになっていた学校給食部門の比率を全体の50%に下げ、それに代わる新たな日配事業をつくる方針を立てました。
日配事業とは毎月安定した売上が見込める事業のことで、事業運営をしていく上では基礎となるべき事業です。
スーパー流通部門は日配事業の最たるものですが、一度撤退した事業に戻るのではなく、新たにメディカルフルーツとアレルギー対応デザートの事業を立ち上げました。
当時こうした目標を掲げました。
「学校給食のリーディングカンパニーであり、メディカルフルーツ、アレルギー対応デザートのパイオニア」
第一次中計が達成され、FLは次の成長の柱を「環境と人権」に決定しました。
・環境/Enviornment
2015年パリ協定が採択され、世界は平均気温を産業革命時の+1.5度とする約束をしました。
しかし去る7月、国連のグテーレス事務総長は
「人類は気候変動対策に敗北し、地球温暖化の時代から地球沸騰化の時代に突入した」と述べました。
私たち人類に残された時間は既になくなってしまっています。つまり、気候正義/Climate Justice が事業そのものに問われることなりました。
気候正義とは、急激に進む温暖化により地球規模の災害が頻発するようになり、世界の優先順位の一番に温暖化対策を挙げようとするものです。
温暖化対策を免れないフードサプライチェーン
世界中で温室効果ガス(GHG)の削減が進められています。しかしGHG削減が進んでいないセクターが食品・フードサプライチェーンです。
2019年、世界食糧農業機関(FAO)は世界のGHGの31%が食糧システムに由来すると発表しました。
更に人口増加による食料増産で、2050年のGHG排出量は20年比の1.3倍になるとしています。
エネルギー・自動車等ほとんどのセクターがカーボンニュートラル(CN)に向かう中、唯一食品セクターだけGHGが増加し、特に温室効果の高いメタンと一酸化二窒素の排出は家畜と農産物に起因しています。
環境問題としての有機農業
大量の化学肥料・農薬・水の使用が原因で耕地面積が劇的に減少しています。
2021年9月、国連食料システムサミットが開催され、EUと米国から農林水産業の持続可能性目標が示されました。更にEUは"Farm to Fork” を発表し、2030年までに化学農薬の半減、有機農業を全耕地面積の25%に拡大する数値目標を設定しました。
有機農業は化学肥料・農薬を使用せず、本来土地の持っている力で作物生産を行うためGHGは大幅に減少し、失われた土壌を回復させます。
オーガニックフルーツの商品化
フードサプライチェーンには環境対策 が迫られています。その中でFLは環境対策を商品化しました。
10月、名古屋市は全国に先駆け有機パインスライスを登録物資とし来春名古屋市の全小学校(14万児童)に有機果物を提供します。
これは昨年成立した「みどりの食糧システム法」の学校給食における具体的実現であり、名古屋市の先進的決断は全国の市町村に大きな影響を及ぼすものと思われます。
・人口減少/Labor foece
日本は人口減少と高齢化が急速に進んでいます。25年後には人口は9,500万人に、人口の4割は65歳以上の高齢者となります。人口減少に伴い労働人口は減少し、人手不足は更に深刻な問題となっていきます。
FLは人手不足に対応するオンデマンドフルーツをメディカル事業として立ち上げました。
コロナ後はホテル・外食分野に拡大し「フルーツと私」の新事業を立ち上げました。
・ジェンダー平等/Gender
FLはジェンダー平等を進め、工場長・副工場長をはじめ生産部門のリーダーは全て女性となりました。
現在労働時間の増加が可能な社会層は唯一主婦層です。FLは「年収の壁」を会社自ら崩し、女性が働きやすい職場をつくっていくことで優秀な人材の確保につなげています。
「急がば回れ…」
環境が劇的に変わっていく中で、企業には変化する勇気が求められます。
FLが中計の先に目指すもの、それは今までとは全く違う発想の世界観を持つことから始めます。それが実現可能かどうかは、始めてみること「急がば回れ」です。
①環境負担を数値化し表示
EUでは商品の表示にエコスコアの導入を始めました。
消費者の環境意識の高まりを受けて、環境負担の少ない順にA緑・B黄 緑・C黄・D橙・E赤と5段階のラベルで環境負担を表示し、消費者が毎日のライフスタイルに環境を考慮して買い物ができるようにしました。
既に仏カルフールや瑞オートリーでは商品への環境表示を進め、環境負担の少ない高価格(A緑ラベル)の売り上げが伸びています。消費者は環境コストを支払うことでギルティフリーGuilty free を選んでいるわけです。
FLは自社製品にエコスコアを表示する準備を始めます。そのエビデンスをカロリー計算の元になる食品成分表のようなデータ化として進めていきます。
②カーボンクレジット
エコスコアと共に年間GHG排出量を計算し、いずれ企業に割り当てられる排出権のクレジット化を進め、本社⇔支店間、或いはJFSAのような食品ネットワーク間でのカーボンクレジット売買のシミュレーションシステムをつくります。
③代替フロン回収チーム
フードサプライチェーンには冷蔵冷凍設備はなくてはならないものです。しかし温暖化に最悪の影響のある冷媒のCN化が進んでいません。
オゾン層を破壊する特定フロンは既に全廃され、オゾン層に影響のない代替フロンHFCsが現在冷媒として使われています。ところが代替フロンの温室効果は種類によってはCO2の数万倍あり、フロンがGHG削減の努力を相殺してしまっています。
モントリオール議定書COP28のキガリ改正により、2036年までに代替フロンの85%削減が決まりました。
日本は2030年までに32%減、2050年にゼロとする国際公約を掲げています。しかし削減どころか増加しているのが現実です。フロン全廃は国際条約に基づくものであり、最重要の温暖化対策の課題です。新ビジネスとしての可能性が大きなものです。
代替フロン削減ロードマップ
・ノンフロン機器の開発交換
・フロン漏洩防止
・設備交換時のフロン回収とレトロフィット
エコスコア、Cクレジット、代替F回収、三つの課題がビジネスとして可能かどうかは未だ見通すことはできません。
しかしFLは今この先に全く違うビジネスの世界観を拡げていくつもりです。