月刊フルーツライフ No.133 |
下落し続ける円 厳しい国内産業
かつて日本の企業がNYの摩天楼を買い漁っていた時がありました。
1986年、円の価値は1ドル/75円という空前の円高となりました。
日本がバブル経済だった頃”Japan as No.1”と日本経済は賞賛され、貿易黒字はどんどん膨れ上がっていきました。逆に貿易赤字が積み上がっていた米が業を煮やした結果、1985年9月にG5(米・独・仏・英・日)で「プラザ合意」が結ばれ円高が決定されました。
当時100万ドルのNYの摩天楼は7,500万円余りで買うことができ、円高による割安感から日本企業は挙って摩天楼を買い漁ったわけです。
例えて言えば現在の円レートは1ドル/150円と円安が進み、100万ドルの摩天楼は1億5000万円となってしまいました。つまりNYの同じ摩天楼を買おうとした時、2倍の円貨が必要となり結果的に円の価値は半分になってしまったというわけです。
これではエネルギーと食料のほとんどを輸入に頼る日本では、全ての物の価格が上がっていくことは仕方ありません。なぜなら同じお金で今まで買うことのできた半分のものしか買えなくなったわけですから…。
濡れ手に粟の輸出産業
逆にトヨタを始めとした輸出企業に とって急激な円安は何もしないで利益を手にすることができることになります。
とはいえ物事には表裏があり、アベノミクスの円安誘導の結果ぬるま湯に浸かって利益を得ていた日本企業は、世界のイノベーションの大波に乗る努力を怠り、結果的に国全体がガラパゴス化することになりました。
販管費/120%!
FLは9月が決算期です。この一年全てのものが値上がり、販売管理費が前年比120%となりました。
なかでも製品を出荷するための運賃が20%増、電気等エネルギー料金も20%増加しました。
こうした製造・出荷になくてはならないものが値上がりし、上昇分を売価に転嫁できないのが現状です。
総じて国内産業は仕入価格の上昇に対して販売価格の値上げが追いついていません。例え売価を上げたとしても、次々に上昇する仕入価格に上げ幅が追いついていない現実があります。
大きすぎる円安の影響/輸入税の大幅負担
またこれまで殆ど変わらなかった関税と輸入消費税が大幅に増加しました。
関税及び輸入消費税は輸入時の為替レートを元にドルから円に換算して課税されます。
そのため税率そのものは変わらないにもかかわらず、関税率の高いパイナップルや黄桃は驚くほどの金額の関税・輸入消費税が賦課されることになりました。
そもそも輸入はドル建で行なわれており、ただでさえ円安で打撃を受けている上に輸入時の税金が円レートで課せられることにより、本来の原料価格とは別の「為替と関税」ファクターによって輸入原価が大幅に上がることになりました。
失われた10年で学ぶこと
所謂先進国と言われる国で、自国通貨が二年余りの短期間で50%%下落する国は殆どありません。
海外に行ってみると、食事もホテルも驚くほど高くなっています。つまり円の価値が大幅に下がったことを実感します。
輸出で成り立っている日本経済は、10年間のアベノミクスによる円安誘導で利益を容易に得ることができました。
しかし現下国内をマーケットにした企業は厳しいところに立たされています。とはいえ視点を変えれば、こうした試練こそ新しいものを生みだす力となります。
為替操作で本来の事業以外で利益を享受して安穏と過ごしてきた日本経済、その10年の間に失われたものが私たちの目の前に一挙に現れました。
失われた10年から学ぶこと、それは惰眠と訣別し困難に立ち向かう私たちの姿勢です。
労働人口減少の社会
山形県寒河江市で工場を稼働し始め実感した具体的なことが二つあります。
一つ目は働く人がいない、二つ目は都市部と同じような物流サービスを期待してはいけないということです。
人手不足は食品企業も同じ
FLでは人手不足を解決するための「フルーツと私」という新事業を展開しています。
ホテル等サービス観光分野における厨房の人手不足を解決するオンデマンドフルーツの提案です。全国から引き合いも多く成長を実感できている事業です。
しかし人手不足は、ホテルサービス分野のみならず、凡ゆる分野で深刻です。
「フルーツと私」ではフルーツを食品会社の物流センター入れすることで運賃分を値引きしています。ところがその食品会社自体が配送等で四苦八苦しているのが現状です。
価格以上に人
直送という新たな提案
コロナが明け、全国の食品会社は食品展示会を開催するようになりました。FLもメーカーとして各地に出展しています。その中で多くの企業トップが営業・配送ドライバーの不足に悩んでいました。
こうした声を反映させ今後「フルーツと私」の運用を柔軟に行なっていきます。物流入れか直送かを選ぶことができるようシステムを作り直していきます。今は多少の価格差よりも人手の方がプライオリティが高くなっているからです。
最低賃金の上昇が招くパートの就業調整
10月より全国の最低賃金が上がりました。愛知県では1時間当たり1,027円となります。
世界的にも賃金上昇が遅れている日本では千円超えはむしろ遅かったほどです。一方で個人ではなく家族を一つの単位と考える日本の社会保険制度では「年収の壁」が残されたままです。
時給が上昇すれば「130万円の壁」に達する時期は早くなり、一層パートの就業調整が早まります。そこで政府は年収が一時的に130万円を超えても二年間は扶養から外れない例外を明示する考えを示しました。
伝統的家族観の扶養枠
扶養枠という税優遇制度は「夫が一家の大黒柱として働き、妻は家庭を守り補助的収入を得る」という戦前の家制度が色濃い家族観の表れです。
先に経済同友会新浪代表幹事が「結婚前提の社会制度」の見直しを提言しました。
日本でも結婚しない人々が増えています。社会制度を個人単位にしていくことがダイバーシティを進め、そのことが成長できる豊かな社会を創り出していく力になります。
女性が唯一残る労働人口
人口減少が進む中唯一労働時間の増加が可能な社会層は主婦層です。制度が変わらない以上「年収の壁」を企業自ら崩し、女性が働きやすい職場を創っていくことが、優秀な人材の確保につながります。
女性が管理者として会社の中心を担うことで、男性にはない新たな発想を生み出していきます。食品企業は女性比率の高い職場です。女性の活躍を会社が保証していくことは必ず企業の成長につながっていきます。
FLはジェンダー平等を更に進め女性の働きやすい職場を創造していきます。