月刊フルーツライフ No.122 |
フルーツライフは障がい者支援活動を行なっています。また代表が重症心身障がい児施設「NPOいきもの語り」の理事長として活動しています。
今号では障がい者を取り巻く世界の現状をレポートするとと もに、FLの障がい者支援活動を紹介します。
サラマンカ宣言と障害者権利条約
SDGs4番目の目標は「すべての人に公正で質の高い教育」を求めています。
未だ多くの国では、障がいを持つ人々の人権が蔑ろにされています。
生きていく上で、身体に或いは精神に障がいがあることで働く機会が失われ、収入を得ることが難しく、困難な生活を強いられています。
1994年6月スペイン・サラマン カ市で、ユネスコ(UNESCO)とスペイン政府共同で「特別ニーズ教育に関する世界会議」が開催され、障がい者の教育へのアクセス権等を求めたサラマンカ宣言が採択されました。
その後障害者権利条約として結実し、2006年国連で採択、2008年5月国際条約として発効しました。
求められるインクルーシヴ教育
障害者権利条約/第24条は締約国にインクルーシヴ(包摂共生)教育推進義務を定めています。
インクルーシヴ教育とは、障がい児を含めた特別なニーズ(Special Educational Needs)を持つ子どもたちが、通常学校で共に学ぶ教育のことです。
サラマンカ宣言の中核
サラマンカ宣言はインクルーシヴ教育をこう定義しています。
・すべての子どもは教育への権利を有し、質の高い学習機会を与えられなければならない。
・すべての子どもは独自の性格、関心能力及び学習ニーズを有している。
・特別教育ニーズを持つ子どもはニーズを満たす普通学校にアクセスしなければならない。
・インクルーシヴな学校こそが差別と戦い、包摂共生社会を創り、inclusionの最も効果的な手段であり、結果的に教育システム全体の経費節約をもたらす。
誰も取り残さない教育多様な社会の力に
ユネスコは「万人のための教育」(Education for All)の原則の下、インクルーシヴは文化的創造の基盤を創り出すとしています。果たしてユネスコの目指す文化的創造とは何なのでしょう?
世界は様々な難問を抱えており、社会は応えなければならない課題に直面しています。
戦争や紛争、難民、民族、宗教、ジェンダー、貧富の拡大…分断と対立がさらなる分断と対立を生み、やがて憎悪に変わり、犯罪を生み、テロを招き、罪なき人々が犠牲になり、社会のモラルが崩壊していきます。
障がい者教育が実現する共感するコミュニティ
障がい者の特別なニーズ(SEN)教育/インクルーシヴは、言語的・宗教的・民族的・文化的マイノリティを持つ子どもたちの問題を、特別なニーズ教育の範疇に捉えようとしています。
種々のマイノリティを理由に周辺に追いやられた子どもたちを教育に包摂することで、社会への帰属意識を高め、互いをコミュニティの一員と感じ る心を育て、相互に共感する社会を創り出すことを目指しています。
「共に学ぶ子どもたちは、共に生きることを学ぶ」
“Children who learn together, learn to live together”(北アイオワ大学HPの言葉)
こうして障がい者に対する特別なニーズ教育が、周辺に追いやられた子どもたちを対象化することで、社会全体の問題を解決する可能性を持つものと考えられるようになってきました。
すべての子どもたちが一緒に学ぶ教育/imnclucive は、違いを共有し、学習し、経験することで、社会そのものが多様性を持つものであることを教えていきます。
そしてこれこそがユネスコの目指す文化的創造の基盤となりうるものです。
多様性を認める社会は安全で生きやすい
社会は外部に閉ざされたものとして成り立つことはできません。世界は一国が孤立して存在することはできません。
様々な人々が社会に包摂/inclusion されることで、コミュニティは分断と対立から帰属と共感に変わっていきます。
共にコミュニティを構成する一員として多様性を認める文化的基盤は、憎しみや嫉みのない、寛容で安全な社会に変わっていきます。
こうした文化的基盤を享有した社会は、結果的に社会維持費用を抑えることができ、誰もが生きやすい社会を創り出すことができます。
慈善の対象から人権を享有する個として
サラマンカ宣言及び障害者権利条約の下、世界は包摂共生するインクルージョンに向かっています。
障がい者はこれまで「憐れむべき人」として慈善の対象となってきました。しかし障害者権利条約に結実することで「障がい者を慈善の対象から人権を享受する個人」とするパラダイムチェンジが明確になりました。
障害とは個人の身体的・精神的欠陥ではなく、社会の障壁であり、障害のない人と平等のスタートができるための完全で効果的な参加を妨げている損傷との相互作用と考えられるようになってきました。
つまり障害は障がい者の側にあるのではなく、むしろ社会のシステムのなかにあると考えるようになってきたのです。
いきもの語りが目指すインクルージョンな地域
NPOいきもの語りは、愛知県みよし市で重症児デイと生活介護施設、豊田市で重症児デイ施設を運営しています。50人余の利用者は重度の身体と精神の障がいを持った人々で、気管切開や胃瘻の利用者も多くいます。
未来便が繋ぐ地域との協働
世界の流れがインクルージョンとはいえ、日本では障がい者の多くは孤立して暮らしています。
日本の障がい児教育は未だに分離別学が主流で、障がい児は地域の特別養護学校に通い、卒業後はそのまま社会に放り出されることになります。
ほとんどの人々が障がい者と接する機会がなく、障がい者も共に学ぶ機会のない教育では、コミュニティは多様性を内包するものではなく、むしろ差別と偏見を生み出すものとなります。
いきもの語りは今年から障がい者と地域を繋ぐ新事業を「未来便」として始めました。愛知県でもいきもの語りの地域は果樹を始めとした農業が盛んな地域です。
農家と協働して全国に向け旬な果物を販売しました。結果は大成功、3回実施した未来便は目標を達成しました。
夢だったGH建設
いきもの語りは再来年を目標に、親が老いた後も重症者が安心して暮らしていけるGHグループホームを建設します。
GHを包摂共生のインクルージョンの拠点にしようと思っています。地域の人々と交流し、300坪の広場でマルシェや夏祭りや収穫祭を開催し、アトリウムに作るカフェには地域の人々が訪れます。
未来便を発展させ、障がい者と地域を繋ぐインクルージョンの拠点として発信しようと思います。