月刊フルーツライフNo.89(通算117号) |
月刊フルーツライフ No.89(通算117号)
◆農業を考える
果たして日本の農業を守る事ができるのか?
FL80号で食品の国産信仰について特集しました。そのなかで日本の農業の厳しい現状をレポートしました。
今号では2018年4月1日をもって廃止された種子法について考えてみます。
■種子法とは?
「主要農作物種子法を廃止する法案」が2017年4月、国会で可決されました。これにより1952年に制定された種子法が廃止されることになりました。
種子法は日本の食を守るために、国民にとって欠かすことのできない「稲・麦・大豆」の種子の品質を管理し、優良な種子を安定的に供給することを目的とした法律でした。
■半世紀に渡って続けてきたもの
種子法の下で農業試験場など公的機関は、地域に合った種子の元になる「原原種」やそこから選抜した「原種」の生産普及を行ってきました。
その結果農家は質の良い種子を購入することができ、米の代表品種であるコシヒカリや、あきたこまち、つや姫など多様な種子を安く安定的に購入することができました。
種子法の理念の元になっていたもの、それは種子の多様性にありました。
■アイルランドを襲ったじゃがいも飢饉
ダブリンの街にはアイルランドを襲った飢餓を象徴した群像彫刻が並んでいます。食べ物を求めて彷徨う人々の表情には鬼気迫るものがあります。
19世紀アイルランドは主要作物であったジャガイモに疫病が大発生し壊滅的な打撃を受けました。
当時アイルランドでは品種改良を重ねた生産性の高いジャガイモをほぼ単一品種として栽培していました。そのジャガイモに植物伝染病の一種の疫病が発生するや、瞬く間にアイルランド全てのジャガイモに感染していきました。
その結果、アイルランドのジャガイモ飢饉でおよそ150万人の人々が餓死し、この飢饉をきっかけに200万人に及ぶ人々が移民となってアメリカに渡りました。
1845年から1849年のわずか4年間で、アイルランドの総人口が半分にまで減少しました。
こうした歴史的教訓から、戦後の日本の農業を守っていくために種子法が種子の多様性を担保してきたわけです。
■種子法が担保した生物多様性の現在
2017年12月15日ICUN(国際自然保護連合)が「絶滅のおそれのある野生生物のリスト」いわゆるレッドリストを発表しました。
レッドリストによると現在絶滅のおそれのある野生生物は2万5,821種に及んでいます。
絶滅のおそれのある種には動植物、菌類などあらゆるものが含まれていますが、そのなかには5種のイネと17種のヤマイモ類が含まれていました。
普段作物として利用され、私たちの食を支える重要な農作物が絶滅危惧種となっていたことは極めて深刻なことでした。
野生植物は穀物の原種にあたり、それらが絶滅に直面していることは直ちに多様性の喪失につながりかねません。
干ばつや冷害、病害虫への抵抗は種の遺伝的多様性があってこそなしうるものです。アイルランドのじゃがいも飢饉を見れば、いかに種の多様性を守ることが重要で、逆に言えば私たち人間がいかに環境に対して脆弱なものかが分かります。
■どうして種子法を廃止したのでしょう?
種子法の廃止理由は国際的な農業競争力を強化するため「民間活力を最大限活用した開発供給体制を構築する」規制改革推進会議の戦略の一つとされました。しかし70年間公的種子の育成を進めてきた日本にどれほどの民間活力が生まれているというのでしょう。
■種子は多国籍アグリビジネスの独壇場
「種子を制するものは世界の食料を制する」と言われています。近年、ハイブリッド種子や遺伝子組み換え(GM)作物が普及するに従って、種子はビジネスの中心に変わりつつあります。
国際バイオ事業団によると、2017年にはGM作物は、世界26カ国、栽培面積1億9千万haに達し、GM作物を供給しているのは多国籍アグリメジャーです。
こうした種子の商品化は急激に進んでおり、世界の種子の70%をモンサント(米)、ダウデュポン(米)、シンジェンタ(瑞)、リマグレイン(仏)、ランドオレイクス(米)、バイエル(独)の6社の多国籍企業が独占しています。(2018年モンサントはバイエルと合併)
つまり種子法廃止は多国籍アグリメジャーの要請だったわけです。
■人間は新たに生き物を創造することはできない
アイルランドのジャガイモ飢饉は、食糧増産のために生態系の一部である種子を改変し管理しようとしたことが原因です。しかし種子を改変し管理しようとしても全てのことに恩恵が生ずるわけではありません。そこには必ずトレードオフが伴い、一つの恩恵を増大させようとすれば別の恩恵が減少し最悪の場合全てを失うことになります。
一般に生態系が改変された時、或る一定以上改変された場合二度と元に戻ることができなくなる限界が環境には存在します。それが生物学的平衡であり、その生態系の衰退の最大要因が人間活動の累積的効果です。
人間は生態系の一部を改変し管理することができるようになりました。しかし生き物を新たに創造することはできません。どれだけ科学が発達しようとも人間は環境のなかにあり生体系の一部でしかないのです。
■条例による種子の保護
政府の種子法廃止に危機感を持った農業関係者に、今各県で種子法と同趣旨の条例を制定する動きが始まっています。
農業には資本の論理だけではなく、国民の食を守るという代え難い大切な目的があります。
私たちが今後、持続可能な成長をなしうるかはどれだけ環境に配慮した経済活動をなしうるかにかかっています。
FLは食品企業として日本の食を守る覚悟をもって企業活動を行っていく決意です。
〜〜 〜〜 〜〜 〜〜
フルーツライフ株式会社
center@fruitslife.com
〜〜 〜〜 〜〜 〜〜